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日本の食料・医療・暮らしを考える~自由貿易協定をめぐって 東京大学 鈴木宣弘

はじめに-水面下で進むTPP交渉参加の既成事実化
・現段階は「情報収集のための関係国との事前協議」ではない。国民には知らせずに水面下で譲歩条件(米国の安全・環境基準を満たせばよしとする米国車の輸入台数を設定するなど)を提示して、米国の要求する「入場料」水準(自動車、保険、BSEが3大懸案分野)の詰めが進む。
・BSE(狂牛病)に伴う米国産牛肉の輸入制限は、昨年10月の緩和検討の表明から「結論ありき」で着々と食品安全委員会が承認する「茶番劇」。
・米国が「頭金」を払ったと認めたときが実質的な日本の「参加承認」。まだ米国が認めてないので、日本の「決意表明」も見送られてきた(国民の懸念の反映ではない)。国民不在の既成事実化に歯止めをかける必要。
・11月18、19日の東アジアサミットで、野田総理に踏み込んだ「決意表明」を関係筋が強く働きかけ。最後に「破れかぶれ」になりかねない。米国も大統領選挙の直後で米国の自動車業界に思い切った妥協を認めさせて、米国の「参加承認」儀式の準備が整う可能性。

1. TPPの本質
「1%」の利益のために「99%」を犠牲にしても構わない
・TPPはFTAの1つの種類だが、従来にはない規制緩和の徹底を目指し、99%の人々が損失を被っても、1%の富の増加によって総計としての富が増加していれば効率だという乱暴な論理。

関税撤廃に例外なし
・農産物も皮・履物も全てゼロ関税。7年間の猶予期間は「例外」でない。1俵(60kg)14,000円の米生産費が7年で米国の2,000円程度にコストダウンできるわけがない。

国民生活を守る制度・仕組みは参入障壁
・政策・制度は、相互に助け合い支え合う社会を形成するためにあるが、「1%」の人々の富の拡大にはじゃま。米国の言う「競争条件の平準化」(leveling the playing fields)の名の下に相互扶助制度や組織(国民健康保険、様々な安全基準、共済、生協、農協、労組等)を、国境を越えた自由な企業活動の「非関税障壁」として攻撃。

国家主権の侵害
・「米国は国民健康保険については問題にしないと言っているのだから大丈夫だ」「日本もISD条項をアジアとのFTAで入れているのだから何が問題なのだ」は間違い。
・日本の薬価決定に米国の製薬会社が入り、薬の特許も強化されて安価な薬の普及ができなくなり、国民健康保険の財源が圧迫され崩されていく。すでに長年米国は日本の医療制度を攻撃し崩してきている。この流れにとどめを刺すのがTPPで、TPPで攻撃が止まるわけがない。
・「ISD(Investor - State Dispute)条項」により、あとで米国の保険会社が日本の国民健康保険が参入障壁だと言って提訴すれば、損害賠償と制度の撤廃に追い込める。映画『シッコ』が現実になる恐怖。
・地方自治体の独自の地元産業振興策、例えば、「学校給食に地元の旬の食材を使いましょう」という奨励策も競争を歪めるもの。ISD条項が発動されなくとも発動の恐怖が威嚇効果となって、各国、各自治体が制度を自ら抑制するようになることも米国の狙い(NZケルシー教授)。
・米国はNAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコやカナダにISD条項を使って、人々の命を守る安全基準や環境基準、社会の人々の公平さを守るセーフティネットまでも自由な企業活動を邪魔するものとして国際裁判所(米国の傘下)に提訴して損害賠償や制度の撤廃に追い込んだ。
・豪州もISD 条項は「国家主権の侵害」と反対。韓国は「韓国の主権は韓国国民から米国の企業に移ってしまった」と嘆く。全米50州の100人以上の州議会議員が州の自治が崩される可能性を指摘してISD条項に反対する書簡を提出。
・野田総理は昨年11月にハワイのAPECに行く直前の国会で「ISD条項は初めて聞いた」と回答。総理も知らされずに、操られている。

TPPはレベルが高い?
・「例外なしのTPPが一番レベルの高いFTAだ」は間違い。FTAは「悪い仲間」づくり→Aは友達だからゼロ関税にしてやるが、Bは仲間はずれにして関税をかける、を露骨にやるのがFTAで、それを徹底するのがTPP。
・仲間はずれになったら被害を受け、世界貿易が歪曲されて損失が生じる(「貿易転換効果」)。貿易ルールの錯綜による弊害も生じる(「スパゲティ・ボール現象」)。
・いま「TPPしかない」と主張する学者のほとんどが8年前は「FTAはよくない。中でも日米FTAは最悪」と主張していた。経済学者の良識、経済学の真理とは何なのか。

2. 誰のためのTPPか?
「農業対国益」ではない
・「1.5%の一次産業のGDPを守るために98.5%を犠牲にするのか」は間違い。一次産業は、直接には生産額は小さくても、食料が身近に確保できることは何ものにも勝る保険。地域の産業のベースになって、加工業、輸送業、観光業、商店街、そして地域コミュニティを作り上げている。98.5%が儲かるのか。TPPで輸出がかりに伸びたとしても輸出のGDPシェアは11~12%。

最も雇用を失うのがTPP
・TPP のメリットを具体的に聞いたことがあるか。最近出てきた「TPPのメリットはベトナムで儲けることだ」という議論。直接投資とか金融サービスの自由化を徹底すれば日本は米国から攻められて日本国民は雇用を失うが経営陣は大丈夫。ベトナムで儲ければいい。
・TPPは「産業の空洞化」を徹底して進めるのだから、日本の雇用喪失は過去最大。

1%の利益と結びつく政治家、官僚、マスコミ、研究者の暴走
・米国の最近の世論調査→69%がTPPもFTAもやめてほしい。雇用が失われた。誰が儲かるのか。ごく一部の国際展開している多国籍化した企業が、格差社会デモが米国でも起きてやりにくくなってきたが、それでも自分たちはTPPで無法ルール地帯を世界に広げることによって何とか無理やり儲けようとしている。
・その選挙資金がないと大統領になれない政治家、「天下り」や「回転ドア」(食品医薬品局の長官と製薬会社の社長が行ったり来たり)で一体化している一部の官僚、スポンサー料でつながる一部のマスコミ、(研究費でつながる一部の学者)、が「1%」の利益を守るために、国民の99%を欺き、犠牲にしても顧皆いのが米国でのTPP。

規制緩和の徹底がもたらす社会の崩壊をさらに進めてよいのか
・日本も同じ。すでに規制緩和の嵐の中で、大店法を撤廃し、派遣労働を緩和して、全国の駅前商店街はシャッター通り、所得が200万円に満たない人々が続出して、これが本当に幸せな社会なのか、均衡ある社会の発展か。この辺で踏みとどまって考え直さないときに、まだそれに逆行して、自らの利益を追求しようとしている。
・政策を研究している学者が政策は要らないと言うなら、学者も要らない。すべてなくせばうまくいくというのは人類の歴史を否定。極論でなく「中庸」を見出す議論を。
・米国の戦略性は、日本などからの留学生に市場至上主義への「信仰」を根付かせ、帰国後に活躍する人材を輩出してきたことにも窺える。

3. 失うものが最大で得るものが最小の史上最悪の選択肢
・経済連携、貿易拡大の流れそのものを誰も反対と言ってはいない。日本、アジア、世界にとって本当に均衡ある社会の発展につながるような経済連携を我々は選ぶべき。
・「経済連携を進めて貿易拡大するためにはTPPしかない」わけでなく、目の前に日中韓やASEANとのFTA、日EUなど(注1)が年内に具体化しようとしていることを忘れてはならない。
・なぜ、その中で全ての関税をゼロにして、社会のシステムをガタガタにして、失うものは最大なのに、得るものは、内閣府の試算でも、日本が10カ国でTPPやっても日本のGDPは0.54%、2.7兆円しか増えない。日中2国でもそれより多い(0.66%)し、日中韓だと0.74%、ASEAN+3(日中韓)ならTPPの倍(1.04%)。TPPのメリットは他のFTAと比較して一番小さい。失うものが最大でメリットが一番少ないのだから、これは「農業は反対でも製造業は賛成、特に大企業は賛成」ではなく、日本の誰から見ても最悪の選択肢だと冷静に受け止める必要。

試算に込められた思惑-数字は操作できる
・内閣府と同じモデル(GTAP)で我々が計算しなおしたら、2.7兆円ではなく、ほぼゼロに近い数字。TPPで競争促進→生産性向上→コストが半分になると仮定すれば利益は増える。
・もう一つの問題は、狭義の銭金だけで「外部効果」が入っていない。日本中の水田がTPPで崩壊すれば洪水が頻発するため、ダムを造るのに少なくとも3.7兆円かかる(農水省)。このコストを引いたらTPPは損失のほうが大。

4. 震災復興とTPP
「復興のためにTPP」のショック・ドクトリン(災害資本主義)
・「東日本の沿岸部がぐちゃぐちゃになったのがいい機会だ。これをガラガラポンして大規模区画の農地作って、これを経済特区にしてそこに企業が1社入ってこれを全国モデルにすればTPPも怖くない」と経済界。
・西豪州の1区画が100ha、全部で5800haを一戸で経営していても地域の平均より少し大きいだけという農業と日本の農業がまともに戦って勝って輸出産業になれるか。現場を見てほしい。日本で一番強い農業だといわれる北海道は、これと類似の輪作体系の畑作だが40ha。日本で一番強い農業が先につぶれてしまう。

写真 西豪州(パース)の小麦農家 -2007年9月24日筆者撮影


5. TPPによる農林水産業、国土、地域の崩壊
日本人の体は「国産」でないほどに市場開放されているのに「農業鎖国は許されない」とは?
・日本は農産物関税は、野菜などは3%程度の関税しかなく、品目数で9割の農産物関税は非常に低い。食料自給率は39%、つまり、日本人の体の原材料の61%は海外に依存。原産国表示ルールでは日本人の体は国産でない。

「野菜なら大丈夫」ではない
・米、乳製品など、これだけは国民、地域のために譲れない1割程度の高関税品目もゼロ関税にしたら日本の農地は荒れ果てる。水田で米を作れなくなり田園風景は一変。
・「野菜を作れば大丈夫」というが、皆が野菜を作ったら、野菜は2割増産で価格は半分だから、何を作っていいかわからない状況が広がる。
・一次産業というベースを失ったら関連産業も商店街も消え、地域が衰退。

国土、領土に脳天気でいいのか
・北海道で米と酪農と畜産物と畑作(砂糖も含めて)がゼロ関税になったら人が住めなくなる。沖縄で砂糖がゼロ関税になり、島でサトウキビが作れなくなると尖閣諸島のような島が続出。
・昭和30年代に木材をゼロ関税にして林業は輸出産業になったか。残念ながら山は二束三文になって木材の自給率も95%から18%まで下がって、外国の方の方が高く買ってくれるというので、気がついたら日本の山が外国の所有に。

6. 農業のせいで従来のFTAが決まらなかったのだからショック療法しかない?
・「農業が障害でFTAが進まなかったのだからTPPしかない」という議論も間違い。日韓FTAが農業のせいで中断はウソ。本当は韓国の素材・部品産業が日本からの輸出で被害を受けるのは政治問題になるので何とか日本から一言技術協力について触れてくれと韓国が頭を下げたが、日本の業界と管轄官庁は「そんなことまでして韓国とFTAをやるつもりは最初からない」。それで交渉は中断したが、記者会見になると「また農業のせいで止まった」と説明。
・農業も問題になるが、「米の関税はゼロにはできないが、タイの農業発展のために技術協力する」と申し出て、農業はいち早く合意。最後まで残ったのは自動車。マレーシアも同じ。

7. 所得補償するからゼロ関税でも大丈夫?
・「農業は所得補償予算をしっかりつけるから大丈夫だ」も正しくない。
<米関税ゼロの場合>(14,000円-3,000円)÷60kg× 900万トン=1.65兆円
からわかるように、米をゼロ関税にした場合に14,000円/60kgの基準価格と3,000円の輸入価格との差額を生産量(生産調整廃止の場合)に補填すると、米だけで毎年1.7兆円も支出しないと、いまの米の生産を国民に確保できない。他の作物を含めると4兆円。消費税2%分の財政負担を毎年農業だけに払えるか。「ゼロ関税にして強い農業を作る予算をつける」というのは破綻。ゼロ関税しかないTPPは無理。
・現行778%の関税も必要ないが、ゼロでなく、適切な関税と適切な国内対策の組合せが必要。
<米関税250%の場合>(14,000円-10,500円)÷60kg× 900万トン=5,250億円

輸入米は価格上昇しているから大丈夫?
・「輸入米価格は3,000円/60kgでなく、9,000円くらいになっているから大丈夫だ」という議論も間違い。SBS(売買同時入札方式)で9,000円程度となっている現在の価格は、輸入枠があるため輸出国側がレント(差益)をとる形で形成された高値。輸入枠が撤廃され、自由な競争になれば、レントを維持できなくなり、生産コストのレベル(米国2,229円、豪州2,043円)での競争になる。
・日本の米生産費は10~15ha層で11,130円、15ha以上で11,503円、平均規模が10~15haになっても2,000円にはほど遠い。しかも、分散錯圃のため15ha以上でコストダウンは頭打ち。

昨日までと正反対のことを平気で言う人に注意
・「日本の農産物は品質がいいから大丈夫」「世界は供給量が限られているから大丈夫」も間違い。昨日までは「品質とか量はビジネスチャンスにもとづいてどんどん動くものだ」と強調していた人たちが、いまは「日本のお米は品質がいいから大丈夫だ」「カリフォルニアは水がないから大丈夫」。
・NHKがY県の「T姫」とカリフォルニア米との食べ比べ実験で、半数以上の消費者の方々がT姫よりもカリフォルニア米の方がおいしいと回答。
・カリフォルニアは水がなくても、アーカンソー州は水豊富。いまインディカを作っているのは、それが売れるからで、ビジネスチャンスが日本で生じれば、アーカンソーではいつでもジャポニカに切り替えられる。ベトナムでもジャポニカは生産可能。これを知っている人たちが「TPPに賛成」と言うときには、いままでと正反対のことを主張。

8. 食品の安全基準は各国が決められる?
BSE(狂牛病)-国民の命守る基準を「露払い」で差し出す愚行
・米国のBSE検査率は1%程度で、24ヶ月齢の牛からBSEが見つかっているし、危険部位が付着した輸入牛肉が頻繁に見つかっているから、「20ヶ月齢以下」は国民の命を守るには必要。しかし、昨年11月のAPEC会合の直前の10月にハワイへの「お土産」として差し出してしまった。「科学的根拠に基づく緩和でTPPとは無関係」と見え透いたウソをつき続ける情けなさ。

遺伝子組換え食品が世界を覆う?
・米国が科学的に安全と認めたものに表示するのは消費者を惑わすからやめるよう、豪州、NZもTPP交渉の中で求められている。消費者は選択の権利を失い、GM食品がさらに広がる。

いまも危険なポストハーベスト農薬もさらに緩和か
・ポストハーベスト農薬も日本の基準が厳しすぎるからもっと緩める要請。
・「食品の安全基準とか検疫措置は各国政府が決める権限があるのだから緩められることはない」も間違い。昨年12月、米国の公聴会でマランティスUSTR次席代表が、日本が不透明で科学的根拠に基づかない検疫措置で米国の農産物を締め出しているのは是正すべきであり、TPPにおいては米国自身がこれをチェックして変えられるシステムに変更することに執念を燃やしていると発言。ISD条項で提訴の可能性も。そもそも、すでに米国からの要求で数々の基準緩和をしてきている。TPPでそれが止まるわけはなく、加速して「とどめを刺す」のがTPP。

9. 食料に対する国民の意識
安さに目がくらむ消費者になぜなったのか
・世論調査では、「高くても国産買いますか」に90%がハイと答えるのに、自給率は39%というのが日本人。日本ほど安ければいいという国民はいない。
・生産サイドの関係者も、自分たちの生産物の価値を、農がここにある価値を、最先端で努力している自分たちが伝えなくて誰が伝えるのかが問われている。

戦略物資としての食料の認識の乏しさ
・食料とは、軍事・エネルギーと並んでまさに国家存立の三本柱だと言われているが、日本ではその認識が全くない。
・ブッシュ前大統領「食料自給はナショナルセキュリテイの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。それにひきかえ、(どこの国のことかわかると思うけれども)食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。(そのようにしたのも我々だが、もっともっと徹底しよう。)」

競争力でなく食料戦略が米国の輸出力を支える
・米国は徹底した戦略によって輸出国に。食料は、世界をコントロールする為の一番安い武器。米の生産コストもタイやベトナムの2倍もするのに生産量の半分以上を輸出。米と小麦とトウモロコシの3品目を1兆円使って差額補填して安く輸出し、農家の生産も支えている。日本は輸出補助金ゼロ。
・日本の農産物ももっと輸出しようと言うが、日本では輸出促進の補助金は使えない。日本が使おうとすれば、米国からだめだと言われる。事故米もそうで、なぜ食べもしないお米を全量輸入してカビを生やさすのか。最低輸入義務とはどの条文にも書いていないのに日本だけがやっている本当の理由は米国からの指示だから。

日本は従属してしか生きていけないのか
・要するに日本は米国の言うことを聞いて成り立っている国で、すでに従属関係にあり、日本はこの従属関係を完結することによってしか生きていけない国だから、TPPは何とありがたいことかと思うべきだという声。「日本が主権を主張するのは50年早い」
・「日米安保条約で守ってもらっているから仕方ない」は幻想。「米国にとって日本は、国際政治というゲームのなかで、米国という王将を守るために利用され、状況しだいでは見捨てられる将棋のコマにたとえられる。」(孫崎享氏) 

10. 過保護な日本農業にショック療法を?
・「農業は過保護だからTPPでショック療法しかない」も間違い。
・輸出補助金の米国の1兆円に対して日本のゼロ。TPPをやっても米国は1兆円の補助金を使い放題で、日本は全てゼロ関税なのだから、非常に不公平。
・日本の農業所得に占める補助金の割合は15.6%。ヨーロッパ各国の農業所得は95%が補助金。日本は所得も十分支えておらず、価格を支える制度も全部やめたのは日本だけ。
・米国は競争力があるから輸出国なのでなく、競争力はないが、徹底した戦略があるから。日本は過保護だから自給率が下がったのではなく、現場で効果が実感できる戦略的支援が足りない。これまでも、関税も国内保護も削減し続け、米価も10年で半分に。TPPでこれ以上徹底した自由化をすれば、食料自給率は13%まで下がると試算。まさに国民にとっての正念場。

11. 強い農林水産業のための対案
・「日本の農林水産業はTPPを拒否するだけでやっていけるのか。TPPがなくても、日本の農林水産業は、高齢化、就業人口の減少、耕作放棄などで疲弊しつつある。どういう取組みをすれば農林水産業は元気になるのか。TPPがだめだというなら対案を出してほしい」という指摘。

TPPの懸念で農村現場がすでに壊されている
・「これから息子が継いでくれて規模拡大しようとしたが、もうやめたい」と肩を落とす農家が増加。後向きの思考に歯止めをかけ、これを機に農家がもっと元気になるための取組み、現場で本当に効果が実感できる政策とは何かということを地域全体で前向きに議論する機会に。

農の価値と食の未来をみんなで考える前向きの議論に
・元気で持続的な農業発展のためには、禁止的な高関税でも、徹底したゼロ関税でもなく、その中間の適度な関税と適度な国内対策との実現可能な最適の組合せを選択し、高品質な農産物を少しでも安く売っていく努力を促進する必要。

「高くてもモノが違うからあなたのものしか食べたくない」
・日本において「強い農業」とは、単純に規模拡大してコストダウンすることではない。それだけは同じ土俵で豪州と競争することになり勝負にならない。基本的に日本の農業は豪州などよりも小規模なのだから、少々高いのは当たり前で、高いけれども徹底的にモノが違うからあなたのものしか食べたくない、という生産者と消費者の「絆」が本当に強い農業の源。
・スイスでのキーワードは、ナチュラル、オーガニック、アニマル・ウェルフェア(動物福祉)、バイオダイバーシティ(生物多様性)、そして景観。できたものは本物で安全でおいしい。値段が高いのでなく、その値段が当然なのだと国民が理解。
・小学生の女の子が1個80円もする国産の卵を買って「これを買うことで農家の皆さんの生活が支えられ、そのおかげで私たちの生活が成り立つのだから当たり前でしょ」。スイスではミグロなどの生協が食品流通の大半のシェアを占めている。日本の農協にも生協にも、1組織でそれだけの大きな価格形成力はないが、ネットワークを強めれば同じことができる。

農業が地域コミュニティの基盤を形成していることを実感し、食料が身近で手に入る価値を共有し、地域住民と農家が支え合うプロジェクト
・自発的な地域プロジェクトを創り出すトータル・コーディネーターが必要。この流れが全国的なうねりとなることによって、何物にも負けない真の「強い農業」が形成。こうした努力さえも根底から崩してしまうTPPは「ノー」と言わざるを得ない。

食に安さだけを追求することは命を削り、次世代に負担を強いること
・買いたたきや安売りをしても、結局誰も幸せになれない。皆が持続的に幸せになれるような適正な価格形成を関係者が一緒に検討すべき。
・食料に安さだけを追求することは命を削ること、次の世代に負担を強いること。その覚悟があるのか、ぜひ考えてほしい。

食の安全にかかわる重大な情報が開示されていない
・認可もされていない日本で、米国からの輸入によってrbST(遺伝子組み換えによる牛成長ホルモン)使用乳製品は港を素通りして、消費者は知らずに食べているという実態。輸入品が全部悪いと言わないが、人の健康を守る立場から、こういう情報開示を控えることは許されない。

12 いまこそ冷静な選択を
アジア主導の柔軟で互恵的な経済連携が世界の均衡ある発展につながる
・TPPで食料自給率が13%になったら、国民の命の正念場。医療も崩壊し、雇用も減り、しかし、得られる経済利益は、アジア中心のどのFTAよりも小さい。なぜ、TPPを選ぶのか。
・歴史的に困難な問題を乗り越えて、共通性の高いアジア中心の柔軟性で互恵的なFTAを進めて足場を固めることが、米国との対等な友好関係にもつながる。
・しかし、米国はアジアがまとまることを絶対許さない。TPPでアジアを分断してアジアの利益をつまみ食いできるからTPPは米国に都合がよい。
・米国は「TPPは中国包囲網だ。日本は中国が怖いのだから入らなければだめでしょ」と筆者に説明。「TPPがアジア・太平洋のルールになるから入らないと日本がガラパゴスになる」「アジアの成長を取り込むにはTPP」というのは間違い。中国は警戒して入って来ないし、韓国もタイもインドネシアもインドもNO。
・仮にも、日本が入ってしまい、アジアの国々も入らざるを得なくなり、中国も最後に包囲されて入らざるを得なくなったら、アジアや世界の均衡ある社会の発展はつぶされてしまう。
・ASEANは昨年11月に「TPPが仮にもアジアに影響することになったら、アジアの将来はない。アジアに適した柔軟で互恵的なルールはASEANが提案する」と表明。本来、それを提案すべき日本は思考停止状態の「ポチ外交」。
・2012年11月中旬の東アジアサミットで、日中韓FTAとASEAN+6のASEAN地域包括的経済連携(RCEP)の交渉開始が宣言される。RCEPはASEANと日中韓、インド、豪州、NZの16カ国で、2015年末までの3年間で交渉妥結を目指す。オセアニア諸国も含まれてはいるが、アジア諸国の主導で、TPPとはまったく違った柔軟で互恵的なルールを交渉できる可能性はある。日EUも年内に交渉開始の見込み。柔軟性のある経済連携の選択肢がいくつも動き出そうとしている。
・政府がいう「日中韓もRCEPもTPPも同時に進めればよい」というのは間違い。ひとたび、すべてを撤廃するTPPに乗れば、他の柔軟な協定ができなくなってしまう。世界の均衡ある発展につながる経済連携を日本もリードして進め、TPPを排除すべき。あとで米国が柔軟で互恵的な経済連携に入りたいと言うなら、それは拒む必要はない。

おわりに
・メリットを計算しても出てこないから、相変わらず、日本にとってのTPP参加のメリットは誰も明確に示していない。つまり、メリットが少ないことは関係者もわかっている。わかっていながら、経済政策の手詰まりから国民の目先をそらして自己防衛するために、TPPにバラ色の未来があるかのように偽って推進することは誰にも許されることではない。
・いまこそ問いたい。日本では、自己や組織の目先の利益、保身、責任逃れが「行動原理」のキーワードにみえることが多いが、それは日本全体が泥船に乗って沈んでいくことなのだということを、いま一度肝に銘じるときである。とりわけ、日本に政治家や官僚がいる意味が問われている。何歳になっても、保身と見返りを求めて、国民を見捨てて生き延びても、そんな人生は楽しいだろうか。日本にも本当に立派な政治家が、官僚がいたな、と言われて、政治生命を、職務を全うしてほしい。それこそが、実は、自らも含めて社会全体を救うのではないだろうか。
・幕末に日本に来た西洋人が、質素ながらも地域の人々が支え合いながら暮らす日本社会に「豊かさ」を感じたように、もともと我々は、貧富を問わず、またハンディのある人も、分け隔てなく共存して助け合って暮らしていける「ぬくもりある」地域社会を目指してきた。いまこそ、踏みとどまって、大震災においても見直された「絆」を大事にする日本人の本来の生き方を取り戻さないと、取り返しのつかないことになりかねない。

<略歴> 東京大学 大学院 農学国際専攻 教授 農学博士 鈴木宣弘 すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より現職。専門は、農業経済学、国際貿易論。日韓、日チリ、日モンゴル、日中韓、日コロンビアFTA産官学共同研究会委員を歴任。財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員。日本農業経済学会副会長。JC総研所長、農協共済総研客員研究員も兼務する。主著に、『よくわかるTPP48のまちがい』(共著、農文協、2012年)、『震災復興とTPPを語る-再生のための対案』(共著、筑波書房、2011年)、『TPPと日本の国益』(共著、大成出版、2011年)、『食料を読む』(共著、日経文庫、2010年)、『現代の食料・農業問題―誤解から打開へ』(創森社、2008年)、『農のミッション』(全国農業会議所、2006年)等。
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